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行動神経内分泌学研究室

Research Highlight 

思春期にテストステロンが脳の雄性化を促進:その脳内作用機序の一端を解明

性ステロイドホルモンは、発達途上の限られた期間において中枢神経機構を不可逆的に雄性化させる「形成作用」と、成熟後に中枢神経機構に作用して雄の社会行動の発現を促す「活性作用」 を通して、性に特徴的な行動の表出を制御している。その一種であるテストステロンもこれらの作用を通して、性行動や攻撃行動といった雄タイプの社会行動の発現に重要な役割を果たす。長年、テストステロンの形成作用は周生期に起こると考えられてきたが、近年の研究では、周生期だけでなく思春期においても見られ、脳の雄性化に重要な役割を果たすことが報告されている。
テストステロンの作用機序にはアンドロゲン受容体を介するものと、芳香化酵素(アロマターゼ)によりエストラジオールへと変換された後、エストロゲン受容体を介して働くものとがある。周生期でのテストステロンの形成作用にはアルファタイプのエストロゲン受容体(ER)を介した作用機序が不可欠であることは知られているが、思春期での形成作用については、そのメカニズム及びそのターゲットとなる脳部位は明らかとはなっていない。
 本研究(出典1)では、RNA干渉法(特定遺伝子の発現を阻害する技法)を用いて、思春期発動前にあたる生後21日齢に雄マウスの内側扁桃帯においてERの発現を阻害し、成熟後の性行動・攻撃行動の発現に影響がみられるのかを検討した。その結果、内側扁桃体での思春期前のER発現阻害により、成体期での性行動、攻撃行動がともに著しく減少することを見出した。さらに、内側扁桃体の神経細胞数には、雄優位の雌雄差があることが知られているが、ER阻害マウスでは、阻害を受けていない雄とくらべ減少しており雌でみられる神経細胞数により近くなっていることも明らかとなった。我々の以前の研究(出典2)では、性成熟後に内側扁桃帯においてERの発現を阻害した場合には、性行動、攻撃行動ともに全く影響を受けなかった。これらの結果から、思春期における内側扁桃体でのエストロゲン受容体アルファを介したテストステロンの脳部位特異的・時期特異的な作用が、雄性社会行動の表出の基盤となる神経回路の構築に不可欠であると結論された。

出典1
Sano, K., Nakata, M., Musatov, S., Sakamoto, T., Morishita, M., Tsukahara, S., and Ogawa, S.
Pubertal activation of estrogen receptor in the medial amygdala is essential for the full expression of male social behavior in mice.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 113, 7632-7637,2016.

出典2
Sano, K., Tsuda, M.C., Musatov, S., Sakamoto, T., and Ogawa, S.
Differential effects of site-specific knockdown of estrogen receptor α in the medial amygdala, medial preotic area, and ventromedial nucleus of the hypothalamus on the sexual and aggressive behavior of male mice.
European Journal of Neuroscience, 37, 1308-1319,2013.

筑波大学HP
http://www.tsukuba.ac.jp/attention-research/p201606210400.html
http://www.tsukuba.ac.jp/en/news-list/p201607281110

Press Release
AlphaGalileo
http://www.alphagalileo.org/ViewItem.aspx?ItemId=166247&CultureCode=en

EurekAlert!
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2016-07/uot-sbo071916.php

Science Daily
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/07/160719105420.htm

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基盤研究(S) 課題「社会性の形成・維持を司る神経内分泌基盤の解明」

2015年度採択の基盤研究(S) 課題「社会性の形成・維持を司る神経内分泌基盤の解明」について、研究の背景、計画の概要は下記をご参照ください。

Japanese
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/12_kiban/ichiran_27/j-data/h27_j1324_ogawa.pdf

English
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/12_kiban/ichiran_27/e-data/h27_e1324_ogawa.pdf

Category : 注目の最新研究成果

エストロゲン受容体ベータが雄マウスの社会行動制御に果たす役割:脳部位特異的なノックダウン法を用いた解析

 性行動や攻撃行動といった雄タイプの社会行動の発現には、性ステロイドホルモンの一種であるテストステロンが必須であるが、その働きには2種のエストロゲン受容体、アルファとベータが関与していることが知られている(これは、テストステロンが脳内で酵素アロマテースによってエストロゲンに変換されて作用するためである)。エストロゲン受容体アルファ(ER)の役割については研究が進められてきたが、エストロゲン受容体ベータ(ER)の役割については、現在までのところほとんど解明されていない。ノックアウトマウスを用いた先行研究からは、ERは単に典型的な性行動や攻撃行動を発現させるというよりも、経験や状況に応じて、それぞれの行動発現の程度をファインチューニングしていることが示唆されてきた。本研究は、ERによる社会行動の制御の脳内機構、特に、テストステロンがどの脳領域のERに、発達過程のどの時点で作用することが重要なのかについて明らかにすることを目的として行われた。本論文では、RNA干渉法という最先端の技法を用い、雄マウスの社会行動制御に重要な役割を持つ2つの部位、内側視索前野(MPOA)と内側扁桃体(MeA)で、性成熟前あるいは成体期に、特定の脳部位でのみERの発現をブロックしたマウスの性行動、攻撃行動、性的選好性を解析した。その結果、MPOAで、成体期にのみERノックダウンしても、性行動、攻撃行動、雄型性的選好のいずれにも影響を与えないが、性成熟前にERをノックダウンすると、成体期の攻撃行動が減少したことから、攻撃行動を制御する神経回路の確立にERが関与している可能性が示唆された。一方MeAに発現するERは、成体期における雄型性的選好に必要であることが明らかになった。すなわち、通常雄は非発情雌や雄のにおいよりも生殖可能な発情雌のにおいを好んで探索するが、MeAでERがノックダウンされたマウスでは、発情雌-非発情雌間の選好が消失した。これらの一連の研究成果は、テストステロンによる性行動、攻撃行動の促進的制御における、脳部位特異的、時期特異的、行動特異的なERの役割を初めて明らかにしたものであり、行動神経科学における極めて重要な知見として注目されている。

出典:
Nakata, M., Sano, K., Musatov, S., Yamaguchi, N., Sakamoto, T., & Ogawa, S. 2016
Effects of Prepubertal or Adult Site-Specific Knockdown of Estrogen Receptor in the Medial Preoptic Area and Medial Amygdala on Social Behaviors in Male Mice.
eNeuro, 3(2) e01555-15.2016 1-14
(Published online: March 23, 2016.)

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