博士後期課程

システム脳科学分野

システム脳科学分野には三つの研究グループがあります。

武井研究グループ

当研究室では、シナプス機能を支える細胞内輸送機構の研究、精神疾患モデル動物の開発を行っています。

松本研究グループ

注意や記憶、推論、学習、意思決定、情動などの心理現象を実現する脳の メカニズムを解明することを目的としています。

設楽研究グループ

人の行動、認知、そして、こころのはたらきまで理解することをめざし、 これらを生み出す脳の情報処理の仕組みを理解しようとしています。


システム脳科学分野

武井研究グループ

システム脳科学分野 武井・野上研究グループイメージ

脳が働くとき、神経細胞どうしの情報のやりとりはシナプスで行われます。神経細胞が興奮すると、シナプスでの情報伝達が変化し、その変化が記憶として残ります。シナプスの働きをこのように調節し、経験を記憶として蓄える仕組みがそなわっているおかげで、動物は外界の変化に適応し、生存繁殖していくことができます。

統合失調症や自閉症のような精神神経疾患には、決定的な治療法がなく、病気のメカニズムも長年不明でした。ところが近年、これらの病態の背景に、シナプス機能の異常があることがわかり、注目を浴びています。私たちの研究グループでは、シナプス機能を支えるメカニズムのうち、特に重要な、『細胞内物質輸送機構』に注目して、病態モデル動物の開発と解析、分子機構の解明を行っています。

シナプス機能を支える細胞内輸送機構の研究
中枢神経シナプスに発現する神経伝達物質受容体には、興奮性神経伝達に関わるNMDA受容体、AMPA受容体、抑制性神経伝達に関わるGABA受容体など多数が知られています(図1、赤色は樹状突起のMAP2、緑色はシナプスのNMDA受容体を示す)。これらの受容体は、神経伝達の調節・神経可塑性の発現など、重要な神経機能を担っています。これらの受容体はは細胞体などで生合成された後、特異的輸送システムによって樹状突起を経てシナプス領域へ運ばれ、集積します。輸送システムは

① 樹状突起内部の微小管依存性輸送(キネシン関連蛋白による)、
② 微小管からアクチン線維への乗り換え
③ アクチン線維依存性輸送(ミオシン関連蛋白による)
の3段階からなります(図2)。このような受容体輸送は、いつも一定のレートで一定の荷物を運んでいるわけではなく、神経細胞の活動の変化や外界の刺激により、ダイナミックに変化します。輸送の制御がどのような分子メカニズムにより行われるのか、また動物のどのような脳機能を支えているのかを解明することを目標にしています。

精神疾患モデル動物の開発
統合失調症や自閉症等の精神神経疾患には、根本的な治療法がありません。そのため、病気である本人だけではなく、家族など周囲の人々も長期にわたり苦しまねばなりません。これらの疾患の原因のひとつに、シナプスの機能異常があることが少しづつわかってきていますが、詳しいことはまだ不明なままです。当研究室では、精神神経疾患の原因解明、診断法・治療法の開発の手がかりを掴むことを目標に、以下のふたつのアプローチで上記疾患の動物モデルを開発しています。

① 細胞内輸送異常モデル
細胞内輸送は、正常なシナプス機能を支えるだけではありません。シナプスの機能異常が統合失調症などの精神神経疾患の原因となっており、その背景に細胞内輸送の故障が存在する例がいくつもみつかってきています。私たちの研究室は、こうした脳の病気の分子メカニズムに注目し、マウス分子遺伝学を利用して精神神経疾患モデル動物を作成しています。

② 母体感染モデル
妊婦がインフルエンザなどのウィルスに感染すると、出生した子供の精神疾患発症リスクが高まることが多くの調査から明らかになっています。これは、母体の免疫反応が胎児の脳の発達や機能に影響し、出生後も長期にわたって影響を与えることを示唆しています。この知見をもとに、妊娠動物に特殊な免疫反応を引き起こす薬物を投与し、精神神経疾患モデル動物作出を行っています(図3)。モデル動物の解析によって、免疫反応の異常から神経機能の破綻にいたる分子病理メカニズムを解明し、治療法や予防法を開発につなげることを目標に研究をしています。

Psyche -こころ- という複合的生物現象を被験者実験で捉え、その生体機序をモデル動物実験で検証する研究(首藤)
Psyche -こころ- という複合的生物現象を被験者実験で捉え、その生体機序をモデル動物実験で検証する研究 この研究テーマでは「こころ」を生物現象として捉え、その発現機構の単純化メカニズムを被験者実験で推定し、それをもとに構築したモデル動物実験からその生物学的機序を解析する研究を進めています。そのため研究対象は情動反応を引き起こす自然現象や社会現象の把握から脳活動の生物学的解明にわたります。具体的には「安らぎ」や「萌え」などをキーワードに、感性の脳機能に効果がある感覚刺激の生体反応を解析します。ヒトを対象とした実験では前頭葉血流計測や自律神経反応計測などを、実験動物を対象とした実験では形態学、電気生理学、生化学、薬理学的解析を必要に応じて組み合わせて使います。そしてそれらの感覚刺激がいかにして「こころ」を構築しているのか、モノアミン作動性神経や興奮性・抑制性神経伝達などの調節に対する先天的本能に基づく反応と後天的経験に基づく反応との違いに着目して調べています。これらの研究で得られた知見が本専攻での分野横断的共同研究として社会に働きかけ、人々のQuality of Lifeの向上に寄与するものづくりに活用されることを目指しています。

研究題目

  • シナプス機能を支える細胞内輸送機構の研究
  • 精神疾患モデル動物の開発
  • Psyche -こころ- という複合的生物現象を被験者実験で捉え、その生体機序をモデル動物実験で検証する研究

システム脳科学分野

松本研究グループ

システム脳科学分野 松本研究グループイメージ

我々の研究室では、注意や記憶、推論、学習、意思決定、情動などの心理現象を実現する脳の メカニズムを解明することを目的としています。そのため、ヒトに近い脳の構造を持つサルに様々 な認知行動課題をおこなわせ、その際に脳がどうのように活動するのかを電気生理学的な手法を 用いて調べています。

また、その活動を脳局所への薬物投与や電気刺激によって操作することに より、脳の活動が行動制御に果たす役割を解析しています。特に現在は、その機能異常が精神疾 患とも深く関わるモノアミン神経群に着目し、以下の研究を進めています。

  1. 視覚探索を支える脳内メカニズム  我々は、視野内の複数の対象の中から目的の特徴を持つターゲットを探し出す視覚探索行動を 日常的におこなっています(たとえば「ウォーリーをさがせ」というゲームを思い浮かべてくだ さい)。このような視覚探索は、ターゲットを探し出すための「注意」や、ターゲットを見つけ たという「自己の行動評価」のメカニズムを調べるモデルとして用いることができます。我々の 研究室では、視覚探索課題をサルにおこなわせ、その際のモノアミン神経の活動を記録し、また、 モノアミン神経伝達物質の作動薬・拮抗薬の脳局所注入がサルの行動に与える影響を解析するこ とによって、モノアミン神経群が「注意」や「行動評価」に果たす役割を調べています。
  2. 成功や失敗から学習する脳内メカニズム  成功や失敗から学習する能力は動物が生存するために必須です。先行研究によって、モノアミ ン神経(特にドーパミンニューロン)が学習に重要な役割を果たしていることが報告されていま す。我々の研究室では、学習課題をおこなっているサルのモノアミン神経群から活動を記録し、 それらの神経活動が学習に必要などのような情報をコードしているのか解析しています。また、 モノアミン神経群から投射を受ける前頭前野へのモノアミン神経伝達物質作動薬・拮抗薬の注入 がサルの学習に与える影響を解析することによって、前頭前野に伝達されるモノアミン神経シグ ナルの役割を調べています。

研究題目

  • モノアミン神経系が認知・情動・動機付け機能に果たす役割

システム脳科学分野

設楽研究グループ

システム脳科学分野 設楽研究グループイメージ

設楽研究グループでは、人の行動、認知、そして、こころのはたらきまで理解することをめざし、 これらを生み出す脳の情報処理の仕組みを理解しようとしています。

そのために重要であると考 えられる、モチベーションや報酬期待、そして行動や計画の脳内メカニズム、学習や認知、価値 判断の脳内メカニズムについて、電気生理学的手法などを用い、次のような研究を行なっています。

  1. 行動のゴールである報酬を獲得しようという「動機:モチベーション」に基づいて計画をた てて、学習によってより効率的な行動をとるようになる時の脳内情報処理メカニズムを調べてい ます。そのために、報酬の期待や予測、報酬の価値や時間割引、及び、報酬の価値判断に基づく 行動決定に関わる脳の情報処理を中心に、霊長類動物モデルによる生理学実験と数理モデル解析 を融合した研究を進めています。
  2. 我々はモノを見るとき、視覚的ノイズが存在してもモノを認識することができます(例えば、 雨滴のついた窓ガラスから外の景色を眺める場合、雨滴が視覚的ノイズとなるが外の景色はわか る)。脳内ではどのような仕組みでこれを行っているのでしょうか?さらに、最近、少量のノイ ズがあった方がノイズが無いときよりも認識が早い場合があることがわかってきました。これら の脳内情報処理の仕組みを霊長類動物モデルにより調べています。
  3. 動物は、喜・怒・恐・悲のような本能的な情動をもちます。人はさらに、複雑な対人・対社 会関係の中で、共感、思いやり、嫉妬といった社会的な情動を獲得してきました。これらの情動 には様々な個人差があります。最近、その要因として、生育環境のみならず、遺伝子の小さな違 い(遺伝子多型)が関係していることがわかってきました。そこで、このような情動の神経基盤 と相手の意図や行為を推測する脳内機構の解明を目指し、分子機構から行動までを繋げて理解す るための動物モデルを開発しています。この動物モデルは、「将来の幸せか?目先の幸せか?」 のような行動決定に関連する報酬系の神経基盤の解明にも役立つと考えられます。
  4. 情動は私たちの意思決定を支配する基本的な仕組みの一つです。情動は、心の中だけで発生 するのではなく、心身の相互作用の結果発生する現象です。そこで、霊長類動物モデルを用いて 身体覚醒度と大脳辺縁系の関係を調べることで、情動と意思決定の予測・制御に関する研究を進 めています。

研究題目

  • モチベーションと報酬期待の脳内情報処理メカニズムの研究
  • 学習と行動決定の脳内メカニズムの研究
  • 視覚認識の脳内メカニズムの研究
  • 情動と社会的行動の脳内メカニズムの研究
  • 行動決定における時間認識に関する研究
  • 報酬獲得行動と身体覚醒度とが相互に及ぼす影響の研究